「今こそ求められる、
原点回帰」

ブリヂストン・タイヤマニュファクチュアリング(タイランド)浪山将介社長に聞く、 強固でユニークな経営の秘訣

Customer Insight

Shosuke Namiyama
Managing Director of Bridgestone Tire Manufacturing (Thailand)

世界中に約130の生産・開発拠点を有し、トップクラスのタイヤメーカーとして名を馳せるブリヂストングループ。福岡県久留米市の足袋屋を家業に持つ創業者が設立した会社が、近々100周年を迎えようとしている。
Photo: Mr. Shosuke Namiyama,
Managing Director of Bridgestone Tire Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.

「事業が世界に広がれば広がるほど、ブリヂストンのDNAを全社に伝承することは難しく、同時にその重要性も増している」

と話すのは、アマタ・チョンブリ工業団地に拠点を構えるBridgestone Tire Manufacturing (Thailand) Co., Ltd.(以下、BTMT)の浪山将介社長だ。

最終ゴールに向け、改めて創業者の掲げた社是を読み解く

 1931年に日本の福岡県久留米市で創業した株式会社ブリヂストンは、1953年に売上高6,300万USドル(100億円)を達成し、国内業界首位の座を獲得した。1965年にブリヂストン・マレーシアが海外工場として初めて操業開始し、グローバル展開をスタート。1988年には米国の大手企業Firestoneを26億ドル(4,100億円)で買収するなど、欧米での事業展開を加速させ、世界的トップタイヤメーカーとして成長を遂げていくこととなった。

 同社は7年後に100周年を迎える。この区切りが持つ意味について、浪山社長は「現Global CEOが掲げるVisionは、2050年までにサステナブルなソリューションカンパニーになることだ。2031年に迎える100周年はあくまで通過点であり、Visionの実現に向け在るべき姿を改めて見直すタイミングとなっている」と説明。具体的には「創業者の石橋正二郎が当時社是として制定した『最高の品質で社会に貢献』という現グローバルミッションを、今の時代に合わせて読み解く時期」だとし、90年以上に渡り伝承される在るべき姿の重要性を強調した。

デミング賞の受賞を通して根付いたブリヂストンDNA

 今でこそタイヤメーカーとして世界的に知られるブリヂストングループだが、意外にも発祥の起点は足袋(たび)だった。足袋は、つま先が二つに分かれた日本の伝統的な履物だ。工事現場で働く人々の傷ついた足を見た石橋正二郎氏が「足袋屋として何かできないか」と考え抜いた結果、足袋の底にゴムを貼ることで足の裏を守る方法を考案。浪山社長は「こうして生まれた今でも地下足袋と呼ばれるゴム底足袋は、創業者にとって初期に実現した『社会に貢献するソリューション』の一つであり、ゴムとの出会いでもあった」と、ブリヂストンの誕生に繋がる原点について説明した。

 「ブリヂストンの現在に繋がる品質管理のDNAを形作ったのは、2代目社長の幹一郎氏だった」と、彼は続ける。社是『最高の品質で社会に貢献』で謳う「最高の品質」とは何か。これを部門を超えて全社員に確実に浸透させ、かつ世代を越えて伝承するためには何をすべきか。試行錯誤の末に幹一郎氏が辿り着いたのは「デミング賞」だった。この賞は、米国のデミング博士が日本に紹介した品質管理手法について、その発展に貢献した業績を称えるものだ。幹一郎氏は「最高の品質を生み出し継承するためには、TQC(Total Quality Control)を徹底することだ」と考え、受賞を狙った。TQCの理論をブリヂストンに合わせて最適化し、ブリヂストン独自のデミング・プランとして社員に教育することで、会社の風土として浸透させた結果、1968年に受賞を実現。これが、TQCがブリヂストンのDNAとして根付く第一歩となったという。

グローバル企業となり直面した壁と原点回帰

 ようやく文化として深く根付いたかに見えたDNAだが、「実は、浸透が弱まってしまった時代や、地域や部門でばらついてしまい業務品質に課題が露呈したこともあった。」と、浪山社長は難しい表情を見せた。 

 「しかし、サービスやモノづくりの現場においては『ムリ・ムダ・ムラ』を特定し排除する能力を身に付けることで新たな価値創造を図ることが求められ、そのためには業務品質の向上が必須であり、その実現にはTQCの理論が必要だ」と、改めてTQC理論の浸透の必要性を強調し、「100周年を目前に控えた今、2050年に向けてグループ全社で原点回帰し、意識の改革を踏まえた価値創造に取り組んでいる」と説明した。

ブリヂストングループが原点回帰と合わせて行っている取り組みとして、「Bridgestone E8 Commitment」が挙げられる。「2050年へ向けて、サステナブルなソリューションカンパニーへと進化していくことを謳っているビジョンを実現してゆくやり方として、ブリヂストンらしい「Energy」「Ecology」「Efficiency」「Extension」など8つの「E」に象徴される価値をどのように創出して、持続可能な社会を支えていくのかをコミットしているものになる。即ち、未来の子供たちからの預かり物であるこの地球のためのブリヂストンとしてのコミットメントである」と浪山社長は説明した。「マネジメントにおいても、これら8つのキーワードがあることで、2050年に向けた取り組み内容の充足度合いをバランスよく確認することができる」と、このコミットメント活用の利点も付け加えた。

タイ拠点の位置づけは「モノづくりの力の強化」

Photo: Aerial view of the Bridgestone Tire Manufacturing plant at AMATA City Chonburi Industrial Estate, with the power plant in the foreground.

ブリヂストングループは東南アジアに10の生産工場を有しており、タイ国内だけでもBTMT含め3つの新品タイヤ工場がある。また2013年には、2,340万USドル(約37億円)を投じてタイに新たにテクノロジーセンターを設立した。同グループにおけるタイの位置づけについて浪山社長は、「世界中の主要タイヤメーカーがタイを生産拠点として選んでいる理由の一つが、世界トップクラスの天然ゴム産出国である点」とし、さらに「現Global CEOの石橋秀一が推進するグローバル全体最適化を標榜するグローカル経営体制においても、モノづくりの強エリアである東側を強化していく方針がある」と続けた。

 石橋Global CEOは、世界中のグループ拠点を西側と東側にあえて分ける経営体制とすることで、グループ内の財産の創出する価値を最大化させる試みに取り組んでいる。浪山社長は「これまでの歴史の中で、西側拠点にはITを始めとしたソリューションビジネスの分野に強みがある一方で、東側拠点については、何十年もの歳月をかけて脈々と受け継がれてきた日本のものづくり文化が一番の強みであることが分かった」とし、「それぞれが強みを伸ばしながら互いに知見や経験をトランスファーしインテグレーションすることで、グループ全体の底上げを図ろうとしている」と、現Global CEOの考えについて明かした。タイを始めとした東南アジア各国に複数の生産拠点やテクノロジーセンターを有していることは、東側の一部としての同地域で、TQCを基盤とした中心としたモノづくりの力を本気で強化している証とも捉えられる。

BTMTが20周年を迎えられた理由

Bridgestone Tire Manufacturing (Thailand) celebrates its 20th corporate anniversary in 2024.

 BTMTは2004年の設立当初から、トラック・バス用ラジアルタイヤ(TBR)生産と、その輸出拠点としての役割を揺らがずに担っており、今現在は一日あたり1万本強の新品TBRを生産できる能力がある。浪山社長は、現能力を伴って今年20周年を迎えられた背景について、タイ行政府やアマタ工業団地、ならびに多岐に亘る領域で操業を支えて頂いている多くの企業様のお陰であることに加えて、「役割を果たすために日本から移植された工程設計や製造マネジメントシステムと教育、複雑性を極力排除したモノの流れ、それらに磨きをかけ続ける小集団改善活動などが20周年を迎えられた大きな要因だ」としつつ、これらに裏打ちされて最大限に高められた生産能力と全員参画の改善活動で培われた高いエンゲージメントがBTMTの最大の強みであり特徴だ」と語った。

 更に「このような強みと特徴を活かし、“Bridgestone E8 Commitment”で実現したい社会価値/顧客価値の創造に動きを止めず励みたい」と付け加える。つまり、サステナブルなプレミアムビジネスを受け持つサービスと商品の顧客への確実なデリバリーをTBRコア生産拠点として支えてゆくというものだ。浪山社長は

「この先もミッションを実現し続けるためには、原点回帰を念頭に置きながらも、新しいアイデアを取り入れながら進化していかなければならない」

と、持続可能な経営実現への意気込みを明かした。

「唯一の日本人」として率いる改革

1994年にブリヂストンに入社した浪山社長は、ブリヂストン創業の地である久留米工場初任を皮切りに、技術センター、ブリヂストン・アメリカス、防府工場、等でのタイヤ生産技術/生産マネジメントに一貫した任務を経て、2021年1月に現職に着任した。着任当初の状況について彼は、「社員2,200名の中で外国人かつ日本人は私一人で、必然的に一般従業員同士の言語はタイ語となるため、社員同士の会話が私には理解できなかった。

さらに社長室はオフィスの一番奥にあり、重たい木の扉が社員との円滑なコミュニケーションを阻んでいるように感じた」と振り返った。工場内での問題点やトラブルの報告が迅速になされていないのではと疑心暗鬼になりコミュニケーションに危機感を抱いた彼は、まず積極的に現場へ出掛けて社員たちへ声を掛けることで自身の存在を能動的に示したと同時に、社長室をオフィス入口付近に移動させ、木の扉や冷たい壁を取り払い、大きく開く硝子張りの扉を設置。マネジメントとの共通言語は、互いにとっての第二言語である英語にシフトさせ、不得手同士同じ土台で自分の言葉でコミュニケーションできる環境を作った。

Photo: Mr. Namiyama and Bridgestone employees photographed in front of the plant.

 浪山社長は「まずはマネジメントチームにおけるコミュニケーションの活性化が、信頼関係構築のために急務だった。物理的にも風土的にも透明性が強化されれば、今現在の正確な情報を、速やかに確実に把握することができる。そうすれば、改善すべき事項に対して的確な対策を検討するなど次のステップに移ることが可能だ」と説明。着任当時に比べて今は、「優秀で頼りになる人材が揃っていると胸を張れる」とし、社員に対する強いリスペクトの気持ちを示した。

 未来に向けて、あえて原点に回帰するブリヂストングループ。ただし、単なる回帰だけでは前に進めない。時代に合わせた創業者が遺した社是(現ミッション)の読み解き、グローバル全体最適で強みを底上げするグローカル経営体制、軸を保ちつつ変化を厭わない強いブリヂストンによる強いビジネス体質構築へのこだわりの姿勢ーこれら全てに共通することは、「今と昔」「西と東」「旧と新」それぞれの間に存在する”木の扉”を取っ払い歩み寄っていることではないだろうか。

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